北陸の大自然で育ったイノシシと向き合うジビエ処理施設
日本海と霊峰・白山を望む自然豊かなまち、石川県小松市。白山の裾野に『ジビエアトリエ 加賀の國』はあります。その名のとおり、黒色を基調とした施設は、南加賀地域のイノシシのおいしさを追求するため、ジビエの作り手たちが処理加工に打ち込むアトリエになっています。
『ジビエアトリエ 加賀の國』が取り扱うのはイノシシのみ。白山周辺に生息するイノシシはくずの根、たけのこ、どんぐりなどを食べて成長します。大自然の栄養をたっぷりと取り込んだイノシシの持ち味を引き出すのが福岡さんと太田さんの仕事です。
職人の丁寧な手仕事がイノシシ肉のおいしさにつながる
おいしさを生み出すための処理加工は、イノシシの搬入から始まります。日頃から連携をとる猟師さんから一報が入ると、福岡さんと太田さんはすぐに捕獲現場まで専用の運搬車(ジビエカージュニア)で直行!福岡さんと太田さんがイノシシに止め刺しを行い、低温の車内に載せて施設に運びます。譲れないこだわりは、自分の目でイノシシが食肉に適した状態かを確認すること。作り手が納得したイノシシが、『ジビエアトリエ 加賀の國』自慢のジビエに加工されます。
イノシシの解体処理は、鮮度の大敵である“熱”との戦いです。イノシシが熱を帯びるなか、太田さんが軽やかなナイフさばきで解体を始めると、イノシシはみるみるうちに赤色が鮮やかなジビエへと姿を変えていきます。迅速に解体する理由について、福岡さんは「ジビエにとって好ましくないにおいは、血液中の菌が増えると発生します。私たちはにおいが生まれる隙を与えないよう、止め刺しから内臓摘出までの工程を1時間以内に行っています」と説明します。
良質な肉づくりのこだわりは細かな作業からも伝わってきます。枝肉を半身にすると、太田さんは脊髄を丁寧に取り除きます。脊髄は可食部ではありませんが栄養を含むため、時間が経つとにおいが出てしまいます。「『ジビエアトリエ 加賀の國』のイノシシ肉の特長は、赤身の澄んだおいしさ。ストロングポイントをぼやかしてしまう要素は、ほんのわずかであっても取り除きたいんです」と太田さん。実直な処理方針が、多くの飲食店を魅了する肉質につながっています。
枝肉を指で押し始める太田さん。指圧マッサージは『ジビエアトリエ 加賀の國』のこだわりを象徴する光景です。溜まった血液が酸化すると雑味になるため、モモ、ウデ、クビにかけて血液を念入りに押し出します。マッサージは出荷されるまでに行うこと計3回!さらに、精肉加工時には細かな血管を取り除くこだわりよう。おいしさのためなら手間ひまを惜しみません。
徹底した衛生管理で「安心あってこそのおいしさ」を実現する
南加賀地域のイノシシをおいしいジビエに仕上げる処理工程は、研究を重ねて確立されました。「『おいしい肉づくり』と『安全な肉づくり』は切っても切れない関係というのが私たちの考えです。例えば血管の流れに沿って血液をしっかり取り除けば、雑味がなく菌が少ないジビエになります。イノシシのおいしさを突き詰めようとした結果、必然的に衛生的な処理工程に行きつきました」
「安心あってこそのおいしさ」を支えるのは、酸性電解水を使った枝肉の除菌・洗浄、常駐する獣医師による搬入イノシシの検査、国産ジビエ認証制度やHACCPにもとづく施設環境の構築など、一言で説明できないほど。飲食店を魅了するイノシシ肉の背景には、『ジビエアトリエ 加賀の國』の多面的な取り組みがありました。
飲食店のジビエ活用を後押しして、ジビエをもっと身近な存在に
『ジビエアトリエ 加賀の國』では、ジビエ料理のヒントとなる情報を提供しています。食肉ラベルの二次元バーコードを読み取ると、捕獲地域、性別、枝肉重量などの個体情報を確認できます。「性別と枝肉重量をもとに好みの部位を選ぶ方もいらっしゃいます。なかには捕獲地域にこだわる料理人さんも。同じ南加賀地域でも小松エリアと加賀エリアにはそれぞれ風土の特色があるので、料理のストーリーづくりにご活用いただけたらうれしいです」と福岡さんは笑顔を見せます。
巷で話題となっているのが、太田さんが手掛ける冷燻ソーセージです。ボイルしたイノシシ肉のソーセージに、時間をかけてじっくり燻すスモークサーモンの燻製方法を用いることで、冷たいままでも燻製香がおだやかに広がる逸品をつくり出しました。イベントで提供したところ、冷たくしてスライスすればワインに合う前菜に、焼き目を軽くつけてパンにはさめばジューシーなホットドッグに、と大好評。イノシシ肉のおいしさを伝えるニューフェイスは、業務用としても提供可能です。
飲食店の期待に応える食肉を供給し、新たな加工品を誕生させる『ジビエアトリエ 加賀の國』。福岡さんと太田さんはその現状に満足していません。「血抜き、熟成、血管除去など、処理加工の精度を磨くことができれば、イノシシ肉のおいしさの純度をもっと高められると思います。ジビエに慣れ親しむ料理人も、ジビエを初めて食べる人も感動させるイノシシ肉を目指したいです」と固い決意を見せます。誰もがジビエ料理を気軽に楽しめるその日まで、福岡さんと太田さんの挑戦は続きます。