穏やかな気候が育んだシカ・イノシシを良質なジビエに仕上げる
東京湾に面する千葉県木更津市は、一年を通して気候が穏やかな街です。温暖な自然環境はシカやイノシシなどの動物を育むゆりかごであり、クルックフィールズでは市内で捕獲されたシカやイノシシを食肉やシャルキュトリーに加工しています。そのおいしいシカ肉とイノシシ肉をつくっているのがジビエ処理施設『オーガニックブリッジ』です。
岡田修さんはジビエ部門を統括する“ジビエのエキスパート”。『オーガニックブリッジ』では、岡田さん自らシカやイノシシを解体します。「木更津はどんぐり、栗、さつまいもなどの食物が豊富にあり、シカやイノシシの肉質に好影響です。その恵まれた素材を損なわないよう、私たちは捕獲後30分以内に搬入して解体処理していきます」
“ジビエファースト”で設計された解体室と熟成庫
良質なジビエづくりを支えているのが、低温度帯にキープされた解体室です。「捕獲してからシカ・イノシシの体温をいち早く下げないと肉にくさみが出てしまいます。10°C設定の解体室では、肉質を保持できる温度帯までスピーディーに冷やすことができます」と岡田さんは話します。ジビエファーストで設計された室内に搬入されたら、あとは解体師の出番。岡田さんと施設スタッフの華麗な包丁さばきにより、シカとイノシシは色鮮やかな枝肉へと姿を変えます。
「ジビエの品質を決定づける工程が『熟成』です」と力を込める岡田さん。熟成庫にも良質なジビエに仕上げるためのこだわりが詰まっています。熟成庫は広々とした空間で、20体近い枝肉を余裕をもって吊るすことができます。“ゆとりある設計”が理想の熟成につながると岡田修さんは言います。「枝肉同士の間隔があいた状態だと、枝肉全体からまんべんなく水分を抜くことができます。数日間にわたり、枝肉ごとの大きさや肉付きをふまえて熟成していけば、旨味をしっかりたくわえたジビエの完成です」
ジビエ初心者を魅了するこだわりのシャルキュトリー
『オーガニックブリッジ』で処理加工されたシカ肉・イノシシ肉は、県内外の飲食店に納品されるほか、クルックフィールズではシャルキュトリーの原料に使用しています。元フレンチシェフ・岡田さんの技術とセンスが光るシャルキュトリーは、そのおいしさが評判を呼び、いまではクルックフィールズの名物になっています。
期間限定商品を含めた30種類近いシャルキュトリーが並ぶ店内では、ソムリエ資格をもつ岡田さんの奥様・綾乃さんが各商品の特長を紹介します。開業して5年、ジビエに馴染みがなかった来場客をひきつけたのは岡田さんのアイデアでした。「はじめはオーソドックスなソーセージやハムを中心に提供して、お客様のジビエに対するハードルを下げることから始めました。うちのジビエは適切に解体・熟成しているので、解凍しても旨味が逃げずクセもありません。こだわりのジビエを使ったシャルキュトリーのおかげで、ジビエのおいしさに気づくお客様はどんどん増えています」
フレンチシェフとシャルキュティエの経験をもとに、飲食店のジビエ導入を応援したい
シャルキュトリーのおいしさで来場客の心をつかんでいる岡田さんは、ウリ坊のベーコンなどの新商品づくりに励む一方で、この経験をジビエ料理に挑戦する飲食店に伝えています。「お客様を育てながら、お店やメニューを育てていくことが大事」という考えをもつ岡田さん。その理由とは。「ジビエに親しみのないお客様に本格的なジビエ料理をおすすめしても受け入れてもらえません。『これなら食べられるかも……』から『ジビエってこんなにおいしいんだ!』とステップアップができれば、ジビエ料理の幅を広げてもお客様はついてきてくれるはずです。季節の野菜や果物との組み合わせなど、ジビエには料理人の皆さんの好奇心をかき立てる無限の世界が広がっています」
おすすめのジビエ調理法について岡田さんは、「ローストやハンバーグなどポピュラーな料理はお客様が興味をもちやすいです。ただ、『シカのロースなら○○』と断言はしたくないです。大事なのは『こんな料理を作ってみたい』という調理意欲だと思います。相談いただければおすすめの部位やおいしく調理するポイントを紹介しますので、ぜひ気軽に連絡してください」と笑顔で話してくれました。クルックフィールズは、シカ肉やイノシシ肉の食肉納品だけでなく、ソーセージやテリーヌなどのシャルキュトリーを飲食店向けに提供しています。ジビエ商材のバリエーションの多さと、料理人の経験から的確なアドバイスを送る岡田さんの存在は、ジビエ導入の一歩を踏み出す飲食店を大きく後押しすることでしょう。